読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

対テロ総研ーテロの発生原因、対策、影響を考える

テロの発生原因、企業の取るべきテロ対策、企業活動への影響等をわかりやすくお伝えします。

日本のテロリズムの定義と認識ー政府、研究機関、民間の問題認識が違う?

テロの発生原因 テロの定義 テロの基本知識 テロって何? 日本のテロ対策 日本のテロの定義

こんにちは、ネコテックインダストリーアナリストの桃井です。

本日の読売新聞の朝刊において日本と各国のテロ対策を比較した記事が掲載されていましたが、やはり日本のテロ対策は諸外国と比較して公安機関の権限が弱いことが指摘されていました。というのも、テロ対策を名目に公安機関の権限を強化することが世論的な反発を招くことが懸念されるため公安機関が対策強化をしにくいからだそうです。当ブログにおいてもこの点について言及したことがあります。

そもそも日本はテロリズムをどのように定義づけているのでしょうか。以前日本政府(公安調査庁)の定義については当ブログでも言及しましたが、今回はやや踏み込んでアカデミズムや世論的な解釈にも目を向けてみたいと思います。実はそれぞれが異なった認識をしていることが浮き彫りになりました。

 

日本政府(公安調査庁)の定義

テロリズムとは、国家の秘密工作員又は国内外の結社、グループが、その政治目的の遂行上、当事者はもとより当事者以外の周囲の人間に対してもその影響力を及ぼすべく、非戦闘員又はこれに準ずる目標に対して計画的に行われる不法な暴力の行使をいう」(公安調査庁、『国際テロリズム要覧』、(1998) )

ここで注目すべき点は下線部です。まず、「当事者はもとよりー」の部分からはテロリストは実際に敵対している対象に対してのみではなく第三者に対して暴力を行使する可能性を指摘しています。たとえば日本政府に拘束されているテロリストの解放を要求するために民間航空機をハイジャックし民間人を人質に取る等の行為が挙げられます。

次に「政治目的」という部分ですが、公安調査庁はこのテロリストの「政治目的」について以下の9点を挙げています。

①王権の獲得 ②政権の奪取 ③政治的・外交的優位の獲得 ④政権の撹乱・破壊 

⑤報復 ⑥通常戦争の保管・代替・補助 ⑦逮捕・収監された構成員の釈放及び救出

日本政府はこうした「政治目的」を伴う暴力行為をテロリズムと認識していると言えます。上記はテロの直接的原因(個々のテロを起こすことに利益を見出していたり、テロを起こす明確な目的がある等)に帰するものが多いと見受けられます。また、暴力行為についての具体的な言及はありません。実はこの点が次に言及するアカデミズムとの認識の相違なのです。

さらに、テロの直接的原因でもある「政治目的」について宗教関連に関する記述も見受けられません。現在紙面を賑わせているイスラム過激派によるテロは想起しにくいかもしれません。

 

日本のアカデミズム(政治学辞典)の定義

テロリズムとは殺人を通して、政敵を抑制・無力化・抹殺しようとする行動である。抑圧的な政府に対して集団的行動がなかなか思うように取れないときに、政府指導者個人を暗殺することで、レジーム全体を震撼させ、崩壊させるきっかけをつくろうと企図することをテロリズムという。【中略】逆に、国家が政府を転覆しかねない反対勢力に対して殺人をおこなうことを国家テロリズムという」

猪口孝、『政治学事典』、弘文堂(2000年) )

まずは下線部青字反転部についてですが、テロリストの取る手段として明確に「殺人」と設定しています。さらに、下線部緑字反転部ではその根本的原因(テロや暴力を生む背景の問題。経済格差、失業率等)として抑圧的な国家機関の存在を挙げており、下線部紫字反転部でも国家がテロを行う側になりうることを示唆しています。こうした根本的原因すなわち社会問題の存在をうかがわせます。

しかしながら、やはり宗教関連の言及はなく現在主流となっているイスラム過激派のテロは想起しにくいものでもあります。

 

世論の解釈

日本の世論においてもテロ問題は根本的原因すなわちテロを生む社会問題にフォーカスされやすい傾向があります。先日も某民間報道局のニュースにおいてテロのニュースの後「世界的な経済格差」について言及されており、テロ問題を社会問題として扱っているという印象を受けました。

実際こうした傾向を指摘する研究もあります。たとえばエルドリッジ氏(Robert D. Eldridge)らはテロ問題を世論がどう捉えているかを確認するため、9.11事件から2004年までの日本の主要月刊誌の記事において「テロ」がどういった文脈で言及されているかをリサーチしました。それによると「テロの社会背景や地域的特性」に焦点を当てたものが最も多く、「テロと自衛隊」等安全保障的な視点からの記事は最も少なかったそうです。また、ここでも宗教的側面にフォーカスした視点は多くなかったそうです。

世論的な解釈もテロは社会問題であり、具体的なテロ対策や公安機関の権限強化といった視点での解釈はなされにくいと言えます。

 

統一した認識ができていないことが問題を把握しにくくしている?

上記のように日本において、政府、研究機関、民間間でのテロリズムの定義や解釈は統一されたものができていない現状であることがお分かりいただけたかと思います。実は米露をはじめとした他国においてはこの三者間での定義、解釈はより共通したものになりここまで乖離した事例はそう多くありません。

こうしたそれぞれのテロの問題認識が異なる点が、具体的なテロ対策の施行を難しくしているとも言えます。それぞれで認識しているテロの問題点が異なるため、対策も玉虫色となりやすかったり、冒頭で述べた読売新聞の記事のように一方の対策(公安機関)にもう一方(世論)が抵抗するといった傾向を生んでいるのかもしれません。

 

関連記事

テロってそもそも何?- ①各国のテロリズムの定義 - 対テロ総研ーテロの発生原因、対策、影響を考える

テロってそもそも何?- ③日本のテロリズムの定義からベルギーで発生したテロを見てみると - 対テロ総研ーテロの発生原因、対策、影響を考える

 

 

 

nekotech(テロ対策を考えるーネコテックインダストリー)