対テロ総研ーテロの発生原因、対策、影響を考える

テロの発生原因、企業の取るべきテロ対策、企業活動への影響等をわかりやすくお伝えします。

テロ問題の解決方法ー英国に見るテロ問題の解決策はイスラム過激派にも有効?

こんにちは、ネコテックインダストリーアナリスト桃井です。

現在個々の国や企業、個人が各々にテロ対策を取っていますが、そもそもテロ問題の解決って可能なのでしょうか。

 

テロ対策とテロ問題の解決の相違

①テロ対策はテロの直接的原因の排除

似ているように見えてこの二つは同義ではありません。まずテロ対策というのは実際にテロをさせない環境づくりやテロ発生時の被害抑制を目的として取られる施策です。テロリストにとってテロを起こしにくい環境やテロを起こしてもあまり被害が期待できないようにするということになります。ただこれについては特定の場所や企業単位で行うことが多く、テロリストがテロを起こす際の根本的原因(経済格差等マクロな問題)の解決にはなりません。テロの直接的原因(テロリストがテロを起こしやすい環境がある、テロを行うことが自分たちの利益になると認識している等)を排除することを目的とした対策になります。

 

②テロ問題の解決はテロの直接的原因と根本的原因双方の排除

これに対してテロ問題の解決とは、テロリストにテロ行為自体をやめさせるということになります。つまりテロリストに「武装放棄」をさせるということになります。このためには先に述べた直接的原因の排除によりテロリストにテロ行為自体の利益が見込めないと認識させるとともに、テロの根本的原因の排除も必要となります。これには当局側がテロリストとの停戦合意や経済的支援、拘束しているテロリストの恩赦等の譲歩を行うケースが多いと言えます。テロ対策とは違い、企業や個人レベルではなく政府、国家レベルでの対応となること、より長期的なスパンでの対策となること、テロリスト側に交渉を受け入れる姿勢が必要となることから非常に難しい対応になるとされます。

ただ現在、このテロ問題の解決に成功した国家が1つありその対策に注目が集まっています。それが英国です。

 

英国はどのようにテロ問題を解決したのか?

長年英国の頭を悩ませてきたテロ問題が北アイルランド問題です。アイルランド島の北部6州の英国からの分離を目指すIRAにより、最盛期には1年間で280件近くテロが発生していましたが2004年には5件にまで減少させることに成功しました。ここまで状況を改善させたのは何だったのでしょうか。

 

①直接的原因の排除

度重なるテロを受け、英国政府は北部6州における英国軍の駐留のみならずSAS等の対テロ特殊部隊やMI5等の諜報機関の派遣を進め、IRAのネットワークの徹底的な破壊に乗り出しました。これによりIRAは最盛期には1年間で数百人の逮捕者を出しました。テロ件数もこの英国政府の治安維持活動強化以降大きく減少に転じました。この大規模な拘束がIRAに壊滅的な影響を与えたという点を多くの元IRA構成員が証言しています。

 

②根本的原因の排除

英国政府は治安維持活動強化のみならず、IRA側との交渉を進める姿勢に転じました。それ以前は交渉は行わないという方針でしたが、長引くテロ問題を受け大きな譲歩に出ます。具体的には帰属をめぐる将来的な国民投票の実施の許可、拘束されているIRA構成員の釈放、テロ行為の恩赦、IRAの政治参加の許可等英国にとって敗北とも言える譲歩と言えます。ただこれによりIRA側も暴力路線の放棄を宣言し議会の場での活動に焦点を移しました。元IRA幹部のジェリー・アダムズは現在北アイルランド議会に議席を置くシンフェイン党の党首として活動しています。

 

英国政府の治安維持活動強化と交渉姿勢、そしてIRA側の交渉の受容により問題の解決に成功した稀有なケースと言えます。

 

イスラム過激派には有効ではない可能性も

上述した北アイルランドの問題は英国政府の治安維持活動強化と交渉姿勢、またIRA側の交渉の受容によって解決した事例と言えます。このアプローチはイスラム過激派にも有効なのでしょうか。

結論から言うと難しいと考えられます。というのもIRAをはじめとした北アイルランドの分離派はカトリック系が多いとされますが、宗教色自体はあまり強くなく英国民やプロテスタントの殺傷行為自体を目的にはしていません。あくまでも自分たちの大義である北部6州の分離を実現させること、そのために世界中にこの問題を知らしめることが彼らの目的でした。これに対して現在無差別テロを繰り返しているイスラム過激派は聖戦の一環として米国人の殺害、非イスラム教徒の殺害等を目的にしており、そもそも交渉自体を拒否しているという実態があります。掲げている最終目的もたとえばISISは欧州にも及ぶ領土の統治であり非現実的であいまいなものがほとんどです。南北コーカサス地域での首長国樹立を掲げるカフカス首長国も聖戦の一環として「ロシアのみではなく、イスラエル、米国等イスラムに敵対するすべての国家への攻撃」を主張する等目的とかけ離れた言動を繰り返しています。

こうした宗教型テロリストとの交渉は残念ながら今後もやはり困難であると考えられます。

 

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